航空運賃は誰がどうやって決めているのか
飛行機で旅行に行こうかなと思い立ったら、まず何をしますか?ツアー旅行でない場合、私はまず航空会社等のWEBサイトで運賃や空きを確認します。航空運賃には様々な種類があり、季節や曜日、時間などによって金額がガラリと変わります。ややこしいこと限りなしです。可能な日程の中でできる限りお得な便を選びたいと思いつつも、特に目的地と日程に幅がある場合は調べるのが嫌になってきます。作業が地道すぎて・・・
それで私は疑問に思うわけです。航空運賃は誰がどうやってを決めているのかと。そして、どうやって航空運賃が決められているかが分かると、お得な航空便を探す手掛かりにならないかと。何事もそうですが、全体像が分かった上で、地道な作業が必要ならば頑張れます。しかし、狭い視野でただ地道な作業をするのは耐え難いものがあります。
私は疑問があるとすぐに調べたくなる性質なので、まずはググりますが、明確な答えが見つからない場合も多々あります。すると文献調査が始まります。職業病かもしれません笑。多くの文献を読み込むのは面倒なので、大元の文献を探すのが最初の仕事です。
今回もそんな感じで調査を開始しました。結果として、航空運賃がどうやって決められているのかは、おぼろげながら分かりました。しかし、お得な航空券を探す手掛かりになるかどうかは、はてな?という感触です。一年以上経ってもこんな状態なので、立ち入ってはいけないテーマだったかも?汗
調査対象
さて、まず辿り着いたのはIATA Tariff、OFCタリフというキーワードでした。IATA(International Air Transport Association)は日本語では国際航空運送協会と呼ばれる業界団体です。日本からはANA、JAL、NCAが加盟しています。IATAは安全・環境・利便性等々の向上を謳って、業界の統一基準を制定しており、その中にTariffも含まれています。
Tariff(タリフ)=料金表ですね。Tariffには世界中の直行便の運賃表が掲載されています。そして、その中から日本発の航空運賃を抜粋しているのがOFCタリフになります。株式会社オーエフシーというJALのグループ会社が発行しています。どうやら購入しなければ内容を確認できないようですが、数万円もするので気軽には購入できません。
もっと調べてみると、かなり古い版ですが、OFCタリフが航空図書館に所蔵されていることが分かりました。
航空図書館が入っている航空会館は興味深い
東京出張の際に少し早く出て、新橋の航空会館に行ってきましたよ。その6階に航空図書館はあります。他にも興味深い組織が色々ありますね^^。
6階のエレベーターを降りると、飛行機の模型がずらりと飾られたディスプレイがあります。冒頭の写真です。MRJやB787の姿もあります。
航空図書館の中へ入ると、まずカウンターで受付します(氏名・連絡先を記入)。その際、手荷物はロッカーに預けるようにと言われました。盗撮防止でしょうか。
入館手続 | 閲覧は無料公開性。入館する際カウンターで入館票に氏名・連絡先等を記入。 | |
開館時間 | 月曜日~金曜日 午前10時~午後5時 | |
休館日 | 日曜日、祝祭日、土曜日、年末年始など | |
館外貸出 | 有料登録制。住所を確認できるものを要持参。一年間有効の貸出登録カードを発行。 | |
館外貸出用の 年間登録料 | 一般・大学生 | 4,000円 |
高校生 | 2,000円 | |
中・小学生 | 1,000円 | |
複写サービス | 有料(著作権法の範囲内に限る) | |
お願い | パソコン、カメラ等の館内持込みは不可 |
資料 | ICAO、IATA、FAA、JANE’S、AIPJAPAN、日刊航空、日刊カーゴ、WING、 航空事故調査報告書、航空法規集、登録航空機一覧表、航空関係告示集、耐空性審査要領、航空宇宙年鑑、航空統計要覧、航空用語集、航空輸送統計年報、数字でみる航空、伝記、航空史、航空工学、操縦技術、航空気象、航空宇宙医学、航空政策、航空宇宙、空港、旅客機、戦闘機、回転翼(ヘリコプター等)、飛行船、気球、グライダー(滑空機)、ハンググライダー、パラグライダー、模型航空、パラシューティング(スカイダイビング・落下傘)、超軽量動力機(マイクロライト)他 | |
航空雑誌 | 和雑誌 | 航空ファン、航空情報、エアライン、エアステージ、航空技術、スペース、運輸と経済、ヘリコプタージャパン、スカイスポーツ、風船、航空管制、Travel Journal、国内航空会社機内誌、各航空会社のパンフレット、当協会機関紙『航空と文化』 他 |
洋雑誌 | FLIGHT INTERNATIONAL、AVIATION WEEK、AIRLINE BUSINESS、FLYING MODELS、HANG GLIDING、SPACEFLIGHT、MODELE MAGAZINE、AEROSPACE AMERICA、AIR & COSMOS、Air & Space、AIR TRANSPORT WORLD、BUSINESS & COMMERCIAL AVIATION 他 |
受付の先には広大なスペースに膨大な蔵書が!?あるわけではなく、少し広いリビング程度のワンルームに3つほど閲覧用のテーブルがあり、周囲の壁に可動式の書棚が並んでいました。
目的の物はすぐに見つかりました。他にも興味深い文献があり、思わず日航機123便事故調査報告書などをパラパラ見てしまいました。いかんいかん。時間は限られているので、OFCタリフをテーブルに広げます。
他に来館者なし、ただし、受付カウンターから「こやつ何しに来たんじゃ」という視線を感じながら、文献に目を通していきます。内部の撮影は禁止とのことなので、写メすることもできず、気になる所をメモします。これこそ地道過ぎると思いながら笑。
1時間以上経過した頃、その様子が伝わったのか?受付の方から「有料ですがコピーできますよ」と業務連絡が入ります。ナイス!もっと早く言ってくれたらベリーナイス!
気になる所を色々コピーして、ついでにもうひとつ「運輸事業の運賃料金制度;財)運輸経済研究センター,平成2年」もざっと見て有益そうだったのでコピーしました。コピー代は、A3で1枚50円、B4で1枚40円、合計で約1,500円でした。
調査結果
ここでは、「航空運賃の決め方」と「お得な便の選定に使えないか」という観点に絞って、二つの文献(運輸事業の運賃料金制度、OFCタリフ)から分かったことを私の解釈でまとめます。いずれも1990年頃の文献なので情報が古いですが、大筋は変わっていないと思われます。分かる範囲で現代版に意訳しています。
「運輸事業の運賃料金制度」のまとめ
航空運送事業の環境
航空運送事業の環境は、景気の影響を受けやすい不安定な事業である(通勤・通学輸送という安定的な需要が無い)。華やかなイメージがマスコミに取り沙汰されているものの、水面下でもがいてなんとか顔を出しているのが実情。不況時や激しい競争時代に備えて経営体質を強化しておくことが国策としても必要だと。
国内線の航空運賃の決め方
国内線の航空運賃は国交相の認可制となっており、路線別原価主義+総合原価主義+遠距離逓減が原則。
路線別原価主義とは、航空会社の路線ごとの事情(需要の大きさや他の輸送機関との競争、直行/乗継)や使用機材の特性(ジェット/プロペラ)などを極力反映させた運賃設定をすること。
総合原価主義とは、赤字路線と黒字路線のトータルで航空会社の収支が成り立てば良いという考え方。赤字路線を持っている航空会社のどこかの路線の運賃は、赤字補填のためにやや割高な設定にしている可能性が高いと思われます(この路線はJALしか飛んでいないというような単独運航路線は特に怪しい)。
遠距離逓減とは、遠距離ほど割安感のある運賃設定をすること。
原価主義とは、運賃=原価+適正利益という考え方。この適正利益について、かつては国が強力に指導していたのが見え見えですが、今は航空会社に裁量権を持たせた自由競争に近い状態と思われます。
かつての航空運賃の割高感の要因
かつての航空運賃が割高だった要因は、人件費と空港使用料でした。国内線営業費用に占める割合は人件費が約23%、空港使用料が約21%(当時)。日本は国土が狭く住宅地が密集しているため、山間部や海上に空港を作らざるを得ず、必然的にコストが上がり、他国と比べると空港使用料は割高と言われています。
これは今でもあまり変わっていないと思われます。我らが中部国際空港は海上空港で、新滑走路の増設も検討されていますが、海上に長期利用の構造物を造るのは地上とは比較にならないほど大変な事です。かつて某K/某H海上空港の建設に関わったことがあるので、割高な空港使用料が暴挙でないことは理解できます。
国際線の航空運賃の決め方
国際線の航空運賃は、二国間の航空協定に基づき両国政府の認可を得て決められます。しかし、第三国企業を含めた乗入れ企業が多数あることや全世界を結ぶ複雑な航空ネットワークになっていること等から国内線のように単純ではありません。
そこで、多数路線・多数国にまたがる調整を効率化し、全体として整合性のある体系的な運賃とするために、IATAが音頭をとって世界の統一ルールを決めています。もちろん各国政府はIATAの検討に(自国企業を通じて)睨みを利かせ、検討結果が適正なものであるかを審査した上で認可する方式を採っています。はは~ん、IATAが決めているんですね。
方向別格差の発生と是正
昔の国際航空運賃は基軸通貨であるドルまたはポンド建てで設定されており、各国発運賃はドルまたはポンド建て運賃に固定レートを乗じて算出していました。その後、変動相場制へ移行したことからこの方式が使えなくなり、発地国通貨建て運賃へと変わりました。
この場合、為替や物価水準の変動に応じた運賃改定が必須となりますが、同一路線の自国発運賃と相手国発運賃を実勢レートで自国通貨に換算した運賃に大きな差が生じる場合があり、方向別格差と呼ばれています。
これはたまに話題になる格安海外発券のカラクリだと思われます。物価水準や通貨価値が相対的に低い国発の運賃は同一路線の日本発運賃より安くなりがちです。このような割安な海外発便を狙うのは、上級会員資格を取得する際の費用を抑える目的が多そうですが、うまく使えれば海外旅行でもアリですね。
国際航空運賃に係る割引運賃の拡充
これについても国の指導を匂わす記述があります。かつては割引運賃と言えば、いわゆるツアー客向けの運賃でした。昔は海外旅行と言えばツアー旅行だったのでしょう。今ではIT運賃と呼ばれていますが、ツアーを利用しない場合はこの運賃を適応できません。そこで考え出されたのが正規割引運賃で、PEX運賃とも呼ばれています。利用に際して様々な制限をかけることで価格を抑えているようです。我々が普段目にしている運賃がコレかな?
「OFCタリフ」のまとめ
OFCタリフの元ネタであるIATA TariffはNTTの電話帳のような分厚い本で、最初の数ページに運賃の計算法やTariffの見方の説明がある他は、透けて見えそうな薄い紙にびっしりと料金表が載っています。基本的には出発地から目的地に直行する場合の運賃が運賃種別ごと、座席クラスごとに記載されています。
IATA Tariffは、辞書のように使うのだと思います。ツアー会社などが航空運賃を計算する際に該当経路の航空運賃を調べて、所定の計算法で合計運賃を計算するというように。当然手計算ではなくシステム化されているのだと思いますが。
OFCタリフは分冊になっており、今回調査したのは「日本発運賃一般規則」「日本発特別運賃」「日本発運賃練習問題」です。IATA Tariffの見方や直行便でない場合の航空運賃の計算法などが載っています。古いですが雰囲気だけ感じてください。なお、記事末に目次だけ載せたので大まかな内容は把握できると思います。
ここで気になるのが④のNUCという値。Neutral Unit of Constructionの略で、運賃の計算に用いる世界共通の単位とのこと。異なる通貨の運賃同士の合算を行うための通貨単位でもあります。各国通貨建運賃を換算レート(対USDの実勢レート)で割った値がNUC建直行公示運賃。
小難しいことを書いてありますが、要は運賃を同じ土俵で比べられるように単位を揃えたということですね。そうすると、同じ路線でNUC値が低い国発の便を探せばお得ってことなのかな?
なお、換算レートは7月、10月、1月、4月の3か月ごとに年4回改正されると。対USDレートと連動して結構頻繁に運賃が変わっている可能性がありそうです。
日本発運賃練習問題というのもありました。練習問題?って感じですが、旅行管理者の資格試験にはタリフを用いた航空運賃の計算問題が出るようです。本屋で資格本を立ち読みすると、タリフの見方や計算法の解説が載っていました。こちらを見た方が分かりやすいかもしれません。もちろん資格のための知識ではなく、ツアー会社では実務として必要な知識なのでしょう。
まとめ
これはまとまらんなと若干後悔しています(笑)。実は他にも色々な文献を入手していて、折を見て読んでいるのですが、まだまだ奥深いです。手っ取り早く、旅行業務取扱管理者の資格を持っている方に色々聞いてみたいな~と思ってみたり。
そもそも、お得な航空券を買おうとするからややこしいのであって、マイルを貯めて特典航空券で旅行するなら簡単です。そうしましょう。
コメント
需要と供給くらいにしか思ってなかったのですが、奥深そうですね。
私はなぜ男性がそんなにCA好きなのかも謎ですwww
たまもりさん、コメントありがとうございます♪なんか利権絡みでドロドロしてそうです…でも最近は規制緩和が進んでおり、需給も大いに関係アリだと思います!CA好きは説明不可能な本能ですよ笑